サンドバッグくんのお話
自分の所属する何かが、サンドバッグにされたことはあるだろうか。
たとえば同じアイドルを推している誰かが問題を起こして「○○ファンはヤバい」と一緒くたにされたりだとか、
自虐ではない文脈で「これだから○○県民は」と、よその人間に蔑まれたりだとか。
少し前、友人が言っていた。
出身校の名前を出すと「ああ、あの(笑)加計学園系列の…って言われることが増えた」と。
というのも、当時よく加計学園報道で利用されていた映像素材に、彼の母校の看板があったからだ。
ちなみに彼が大学を受験したのは十年以上前の話で、当時高校生だった彼がこんな事態を望んで願書を出したわけではない。言うまでもない。
大学選びなんて、専攻内容、自分の学力で行けるか、通学時間、家の財力、滑り止め、就職率、試験日程…みたいな、やむをえない事情を照らし合わせて、ここならなんとか…と思える場所を選ぶ人が大半じゃないだろうか。
まあそんな感じで、何かがサンドバッグにされていることと、
集団に属する個人に帰責事由があるかどうかとは全く関係ない。
はずなのだが、どうも世の中そのようにスッキリ回っていないらしい。
というか、自分を含めて、多くの人が、具体的な個人が目の前にいるときは「個人に責任はないよね」と同情の立場を取るのだが、
これが、目の前にいない何かを批難するときは非常にたやすく、「これだから○○は」に転じる。転じやすすぎる。
ちなみに、前述の友人も、古い知人なんかは逆に同情的で、「報道で看板が映って大変だね。生徒にも迷惑な話だよね」と同情してくれたらしい。
話変わって、ここからは自分の話。
自分はとある事情から、サンドバッグにされやすい生い立ちを持っている。
ざっくりいうと、貧困地域の出身だ。
うちはその中でもかなりマシなほうの家庭で、ばあちゃんの援助や奨学金をやりくりして、給食費も修学旅行の旅費もまあなんとか、普通に納めてきた。
近所では珍しく、制服も新品だった。おまけに母親が洋裁を生業にしてて神経質だったので、身だしなみは鬼教官ばりに厳格だった。
つまり、人様の物を盗らないと立ち行かないほどの家庭じゃなかったし、
(多分)外見も、いかにもみすぼらしい格好じゃなかったはずなのだが、
クラスで物がなくなると、使いさしの練り消し一つですら「あいつのせいじゃないか」とコソコソ言われた。
クラスメイトの何割かは、親にそういう風に(あそこの家は貧乏だから付き合い方は慎重に、と)言われて育ってる。
自分がそれにちょっとでも反論したら、もっと酷くなるか、悪口の内容が変わるだけだった。
「あそこの地域の人間は、(お父さんお母さんが言っていた通り)怖い」と、地域性の問題にされた。
こじれて帰りの会なんかに取り上げられてしまったら最悪だった。
クラスメイトにしてみれば、経緯や人権意識なんてどうでもよくて、ただ帰りの会を長引かせる原因を作った自分が、苛立ちの対象だったはずだ。
そりゃそうだ。誰だってさっさと帰りたい。
ちなみに、持ち物紛失の件、さんざん聞こえるような声で泥棒とか言われたが、どうも単なる本人の忘れ物だったようだ。
何かモゴモゴ言い訳してるクラスメイトのことを正直、ケッ ザコがと感じながら「違ったんなら謝るべきじゃない?」と言ったら、まあ当然、またこじれた。
自分も相当頭にきてたけど、向こうだって引っ込みがつくわけないよねと、今ならわかる。
まわりのクラスメートが冗談で「死ね」とか「ぶっ殺す」とかゲラゲラ笑って言ってる中で、自分の場合は「やめろよ」なんて言うだけで、地域の人間全体の評判を落とした。
「やっぱりあそこの人たちって怖い」と。
これは不幸自慢で言っているわけじゃなく、改めて書き出して、溜飲を下げるために言っている。
小さい頃から思ってたけどさ、
いや、なんで?????ばかなの?????って、改めてデカい声で言いたい。
ばかなの??????????????
なんでその程度の反抗で怖いって言われるんだ?????
今まで意思なきサンドバッグだと思っていたものが急に口をきいたからびっくりしたのか???????
そりゃサンドバッグが突然喋りだしたらめちゃくちゃ怖いけど。
なんか、GHQ占領下「ガイジン」と接した体験が皆無すぎて、米兵にムチャクチャ失礼やらかした日本人みたいな…「ガイジン」が一人の人間であることを誰も考えたことがないみたいな・・・そういうのと似た何かを感じる。
平成も終わろうというのに情緒の経験値が戦後かよ。
自分たちは周囲にとって「貧乏人」というタコ殴り自由の巨大な属性であって、
少なくとも「意識を持った人間」だと思われていないんだなと思った。
そういうふうに思ったことないです?
あ、今、自分は自分じゃなくて、成人男性だとか、○○県民だとか、
そういう、ザックリとした殴りやすい括りで扱われてるなーって。個別具体的な状況観察を放棄されてるなーって。
まあこれは後述する。
うちの地域が貧しいっていうのは、まあ間違いなくて、誤解を与えやすいことに異論はない。
もう人が住んでいない家屋がたくさん、廃屋としてそのまま残ってるし(取り壊しに払う金がない、あるいは持ち主死亡)、
そこらじゅう買い手がつかない空き地だらけ。
無駄に広い公園は草も刈られてなくて見通しが悪い。全部の遊具に物々しい「使用禁止」札。なにせ子どもがいない。そして整備する側も老人ばかりだ。
見た感じ、かなり荒れた土地に見えると思う。
で、その外観のイメージから、あるいは先述の「やっぱりああいうところの人間は・・・・・」の延長から、まことしやかに、「治安が悪い地域」だと語られている。
自分はこの「あそこは治安が悪いから」という、無自覚の優越意識すら感じさせる物言いが大嫌いだ。
貧困層イコール犯罪者ではないが、貧困を原因とした犯罪は起こりうる。
金さえあれば起こらなかったトラブルが頻発、それゆえ関係者の心身が疲弊する、という点において、貧困は犯罪を相対的に多く招く。
それを踏まえて「あそこは治安が悪いから」という発言を見返してみると、どうだろうか。
犯罪と無縁の生活を送れる程度に恵まれている人が、たまたまそう生まれたというだけで、
物心ついた頃から親に酒盗んで来いなんて言われてる人や、そんな人でも住めるような地価の安い地域を指して「あそこは治安が悪いから」と分かったような口をきく。そんな構図。
まあそこまで極端じゃない事例もあるだろうけど、とりあえず傲慢さにヘドが出るんだよね。自分は。
なお、故郷の治安に関して、名誉のために言わせてもらうが、
うちの地域では自分が知る限りで三十年間、傷害事件の一つも起きたことがない。
あと、盗るものがないので窃盗で逮捕者が出たって話も聞かないし、っていうか近所の人は基本、家に鍵をかけない。盗まれるものがない。
首吊りは数件。海への飛び込み自殺も一件。だがこれは脳卒中の死者数を下回る。
まことしやかに語られている「治安が悪い」は、外野の思い込みだと断言できる。
でもね、そうやって平和でパトカーが来ないって事実すらエアプ連中には「パトカーすら行けないぐらいヤバいところ」ってあんばいに変換されちゃうわけよ。
いやホントやってられんわ。
どれだけ尾ひれついたんだか、ネットでは「禁断の土地」とか「ここだけは本当に行っちゃいけない」みたいに、怪談化してることも、ままある。
大学生グループ?っぽい男性三人組が、近所のおっちゃんの敷地で、スマホ持って撮影しながらヤッベーこえ~って言ってたことがあるらしい。
おっちゃんがコラーーッ!!!って叫んで走ってったら逃げたらしいけど、その体験談も、多分どっかのスレで、怪談の補強材料になってんじゃないかな。
いや、でもさ、自分ちの庭先に成人男性3人がズカズカ入ってきて、そ~~っと撮影してたら、咄嗟にコッ、・・・コラーーーーッ!!!(声裏返り)ぐらい言うでしょ。
めちゃくそ焦るわ。自分だったら、強盗かと思って警察呼ぶ。
一応大学生側の擁護もしておくと、おっちゃんの家はかなりオンボロなので、廃屋だと思われてた可能性があって、怪談を真に受けて来た大学生の主観では「廃屋をねぐらにする怪老人に襲われた」って感じだったんじゃないかな。知らんけど。
あと、「何かの呪文みたいな不気味な声が響いていた」って噂を耳にしたことがあるので、それも補足。
想像だけど、それは多分防災無線。スピーカーが古くて音がぼんやりしているから、何言ってっか地域住民でもわからない。
ことほど左様に森羅万象を「やっぱりあそこの地域はヤバい」の補強剤にされ続けるので、自分はもう怒るのにも疲れてしまった。
長くなってきたので結論を言わせてもらうと、
陰謀論が、人に「私は世間のやつらとは違って、世の真実を知っている」といった自己陶酔を与える合法ドラッグだとして、
うちのような地域を「あそこは(やっぱり)ヤバい」「近づかないほうがいい」と訳知り顔で語る行為もまた、その手の合法ドラッグなのだなと。
やっぱりそうなんだ、ヤバいんだ、という自分の思い込みを後押しする素材が手に入ったら、そりゃテンション上がるよね。
自分が人よりものを知ってる賢い人間に思えるからさ。
そういうふうにして自分をアゲてないと収拾つかない、人間の心の脆さって悲しいね。
まあクソくらえですけど。
疲れ切ったサンドバッグくんとしましては、この手の現象、ま~~たクソ野郎がおいでなすったぞ~~!ぐらいにしか思えなくて、あんまり本気で怒ることができないんだが、ちょうど今日アメトーークの謝罪記事を見かけて、久々に同様のがっかりを味わった。その地域に住んでいるわけでもないのに。
謝罪記事を報道したニュースツイートにたくさんのリプがぶら下がっていた。
「だって本当のことでしょ?」みたいな。
「あそこは本当にヤバい地域だし」みたいな。
訳知り顔でそういうこと言う人、そのヤバい(とされる)地域に住んでる/住んでた現実の人間のこと、マジで意思持たぬ砂としか思ってねえんだろうな。無責任な話だ。
不快ですわ~~~~。あなたがたが気持ちよくなるために放った渾身のドヤ顔、心の底から不快ですわ~~~~~~~。
半分愚痴だったけど、ここまで読んでくれた人、ありがとね。
推しが同じってだけで十把一絡げで「○○ファンはヤバい(笑)」とか言われて傷ついた経験のある人、
あるいは出身校、親の職業、なんでもいいけど、様々なカテゴライズで傷ついたことがある人。
もし、ちょっとでも心当たりがあったら、少し考えてみてほしい。
「やっぱり、○○ってそうなんだ」と、己の先入観を補強するために、周りを見ていないか。
そのジャッジは本当に公平か。情報の精査をしたのか。
もっと身近な事例で言うと、
こっちは腹いっぱいなのに、「若いからこれぐらい食べられるでしょ」って余った食べ物押し付けてくる人いない?
誰でもやるような仕事のミスでも年齢だけで「学生気分が抜けてないんじゃないか」とか言われて、テメーも同じようなミスするだろうが、って思うことない?
「ぶっちゃけこの食べ物要らない」「ぶっちゃけ部下の指導をするとき個人の特性まで考えるのが面倒」
ってだけかも知れないのに 。カテゴライズする側の横着。
その横着が誰に迷惑をかけるかというと、
サンドバッグにされがちな属性を、ちょっと余分に持つ人間だったりするわけよ。
これは自分もよくやることなんだが、横着して情報の精査を怠り、己の先入観を補強すると、大した苦労もなく賢くなったような気になれてハイパー気持ち良い。
けど、それって自分が思うに、真の賢さとは真逆の行いであって、
しかもその快楽に慣れると戻りづらい、ヤバいドラッグだ。
世の真相に近づいている風な万能感で脳汁ジャブジャブになりながら、
その実「その声は防災無線です」とか、「ていうかここは私有地です」みたいな基本的なことを見落としてしまうかもしれない。
そんでもって、下手すると誰かを傷つける。自分は今日とても悲しかった。
ここまでの話は、身バレしても面倒だから、相当ノイズを加えてある。なので、くれぐれも特定しようなんて思ってくれるな。
どこぞの迷惑大学生みたいな真似をしてくれるな。
次は警察を呼ぶとおっちゃんも言っていたぞ。
最後になるが、たかだか防災無線に怯えて、不気味な呪文が~とか言いふらした誰かに言いたい。
バ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~カ!!!!!!!!